まもなくインドに旅立つ私の心臓は、恐怖の鎖に締めつけられている[614/1000]

河川の多くの激流が、まさに海に向かって流れるように、これら人間界の勇士たちは、燃え盛るあなたの口の中に入る。

バガヴァット・ギーター

人間は、宇宙の大海から零れ落ちた一滴である。自分よりもずっと大きなものに向かうなら、この大海に自らを捧げずしてどうして力を得られよう。多くの激流が海に向かって流れたように、戦士はいつの時代も勇敢に立ち向った。彼らは一人の例外もなく、家族のため、主のため、国のため、自分よりも大きな存在のために身を捧げたからこそ、臆病風を吹き飛ばし、勇気を振り絞ることができたのだ。

 

まもなくインドに旅立つ私の心臓は、恐怖の鎖に締めつけられている。緊張の糸が背中を縫っている。だが、こんな鎖や糸など、宇宙の大海に浸り入れば、たちまちほころび溶けてく。インド独立の父であるガンジーは、インド古典哲学のバガヴァット・ギーターを生涯愛読した。表題の意味は「神の歌」だ。私は神の歌を暗唱しながら、己を鼓舞し、この身をガンガーに捧げよう。インドの神様に助けを乞えば、これ以上インドのなにを恐れる必要があるだろう?旅行客を騙してくる詐欺師なんてものは、神様の畏怖をまえにしちゃ何も怖くない。

 

ああ心の友よ。私はこれが最後の別れにならないことを願う。ガンガーに身を捧げるとは言っても、やはり慣れ親しんだ日本の土で眠りたい。死ぬまえにもう一度君に会って、返しきれないほどの借りを返さなくちゃいけない。私はおおげさだろうか。ああ、かなりおおげさに演技しているにちがいない。安心してくれたまえ。無謀と勇猛がちがうように、自己放擲は自己放棄とは違う。己は智慧を携えて、力の上にある「無力」さの末に、さいごの祈りを捧げて、天の加護を降り注いでもらうよう乞うているだけなのだ。

きっとまた会えるだろう。そのときは、インドの泥や塵に塗れた、栄光の土産でも受け取ってくれ。ではまた。

 

2024.2.24

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