父性と母性、そのどちらが欠けても人間は女々しくなる。[874/1000]
不甲斐ない。もらう金の分すら、仕事もできんのか。重機を詰まらせ、手鎌を折り、まったく不甲斐ない働きぶりだった。そんなことを考える己のケツを豪快に蹴り上げようとする力と、温かく慰めようとする力が、心の奥底に同時に迫ってくる…
不甲斐ない。もらう金の分すら、仕事もできんのか。重機を詰まらせ、手鎌を折り、まったく不甲斐ない働きぶりだった。そんなことを考える己のケツを豪快に蹴り上げようとする力と、温かく慰めようとする力が、心の奥底に同時に迫ってくる…
あの永遠の苦行と思われた、穴掘りと砕石埋めも、気づけばすべてが終わっていた。気づけば、森にうつくしいヒノキの角材が運びこまれ、何ともいえぬ感動におそわれた。まったく、”自分で”時を歩んでいる認識を…
冬の訪れは、どうしてこうも怖いのだろう。だが、生きるために戦わねば。身体に燃えるちいさな火を絶やすことなく、薪をくべて燃やしあげねば。 まったく、愛するとは、己の熱を他人に差し出すことにちがいない。ちいさな炎は、別の炎の…
ああ、熱が奪われる。冬の訪れがどうしてこうも怖いのか。11月、北国の熊は冬眠に入る。十分な栄養を蓄えて、約半年間の眠りにつく。昨年の今頃、私もまた冬眠に入った。完成した森小屋にこもり、薪ストーブの炎に身を寄せながら、じっ…
悪意に負けそうになるところ、ぎりぎりのところを踏ん張って。苦労を物ともせず、耐え忍び。世に蔓延る無気力と、悪意の波を吹き飛ばし。力強く、愚直に乗り越えていく人間に、世界は自ずと味方するようだ。考えてみれば、当然である。苦…
つまらぬ虚勢であることは認める。だが、男たるもの、常に飢えているくらいがちょうどいい。常に凍えているくらいがちょうどいい。傷だらけの身体で痛みに悶えながら、獣のような鋭い目つきで、天を睨みつけるくらいがちょうどいい。空っ…
東京からの客人が帰路についた。とても気持ちのいい客人だった。大都会で仕事をし、妻帯する身でありながら、老荘思想を深く読み、体験と智慧を重んずる男だった。 突拍子のない話だが、男の話を聞いて、犬を飼いたいと心…
70センチの穴20個に、砕石を埋め終わった。永遠かと思われた過酷な労働も、ひとまずこれで終わりだ。9月から整地をはじめ、樹木を伐り倒し、10月から基礎工事にとりかかり、穴掘りと砕石の運搬に追われた。結局、一トントラックで…
何もすることがないのではなく、何かをする力がないのである。行動と死を選べずに、生の倦怠に耐えかねているだけである。 降りしきる雨のため、森の仕事をすすめることができない。物置小屋からじっと外の風景を眺めながら、昨冬のこと…
私もまた堕落した現代人だと言うのは、力を信仰しながらも、いっぽうで無力に敗北することを心のどこかで認めているからである。樹を倒すにしても、全てをノコギリでこなすことはついに諦め、文明の賜物であるチェーンソーを使うようにな…