寒波に怯えている。自分を大事にしすぎているからだろう。
マイナス10度の野外を寝袋で生きていたことを思えば、雨風しのげる車の中でマイナス5度や6度くらい大したことないはずだ。温かさに触れるのは、白湯とご飯をいただく時くらいで、お湯に浸かれない日々が続く今は、身体が芯から冷え切っているが、このまま寒さの中に死んでいけばよろしい。自分が大きくなり、魂が失われた状態にあれば、肉体の死は自分の死となるが、魂を生かす道をおぼえたなら、極寒の中にも道は開けるはずだ。
クリスマスを最後の晩餐としよう。そこで鶏肉とブロッコリーとジャガイモと小松菜を入れた、オリジナルの特製トマト鍋をつくり、この土地ともお別れをする。どれだけ死んでも11日後には生き返れる。そこを目指して。今日も寒さを物ともせず、逞しく生きる諏訪湖のアヒル達に倣って生きよう。
朝夕の瞑想以外の時間も、どれだけ呼吸と共にあれるかがテーマになっている。
岩手県遠別岳で山ごもりをしたことをきっかけに始めた瞑想も、気づけばもうすぐ100日を迎える。「毎朝毎夕改めては死に改めては死に、常住死身となる」という葉隠の教えを実践するにあたり、朝と夕、寒さに身を浸しながら瞑想するのはいい鍛錬になる。感覚でいえば、滝行に近く、水に打たれる代わりに、冷気に打たれる。肉体を死なせるかわりに、魂が生きていく感覚がある。
スピリチュアルといえば癒しのイメージが先行するが、本来スピリチュアリティとは広い意味での霊性を意味する。生の極性に振り切れた、癒しや幸福はスピリチュアルであるように思われるが、死の極性が排除され、常に肉体に囚われているのであれば、霊的であるとはいえない。本当の霊性は、生と死の両極性をもつ鋭い厳しさと純粋さと透明さを纏う。それはかつて武士道や騎士道、信仰のために命を捨てた人間のことをいうのだと思う。肉体の自分を死なせ、魂を生かす道を選ばなければ、自身の腹に刃を突き立てることはできない。
自分が死ぬようこだわりすぎても、我執に繋がり、自分が膨れ上がり、結果的に生きる道を選んでしまう。最終的に死ぬためには、死のうと考えることすらないほどに、死身となり、法を身とする必要があるように思う。それは、金剛般若経にも書かれているような、純粋が極まるほどに、自分が純粋である自覚すらなくなっていくような状態だろう。
「スブーティよ、どう思うか。永遠の平安の流れに乗った者が、<わたしは、永遠の平安への流れに乗った者という成果に達しているのだ>というような考えをおこすだろうか。」(中略)
「師よ、そういうことはありません。永遠の平安への流れに乗った者が<わたしは、永遠の平安への流れに乗った者という成果に達しているのだ>というような考えをおこすはずはありません。それはなぜかというと、師よ、実に、彼はなにものも得ているわけではないからです。それだからこそ、永遠の平安への流れに乗った者と言われるのです。(中略)
もしも、永遠の平安への流れに乗った者が、<わたしは、永遠の平安への流れに乗った者という成果に達しているのだ>というような考えをおこしたとすると、かれには、かの自我に対する執着があることになるし、生きているものに対する執着、個体に対する執着、個人に対する執着があるということになりましょう。」
中村元・紀野一義訳注,「般若心経 金剛般若経」, 岩波文庫
呼吸に命を感じている。相手の呼吸を感じることができれば、相手のことを思いやれる。木も動物も草花も、そして我々人間も、すべてに呼吸があって、命をやり取りしながら、今日も世界は呼吸で溢れている。忘れられた呼吸も多くあるが、世界の呼吸に気づいて生きているかぎり、世界は人を生かしてくれるのだと直感している。
何かに追われるほど、呼吸を忘れがちになるが、呼吸は世界に満ちていることを知っておくことは、何かの助けになるかもしれない。
精神修養 #88 (2h/184h)
自分の呼吸に気づいていられるくらい意識が明瞭でないと、対象の呼吸を感じることもできない。考えてみれば、当たり前だ。自分の呼吸に気づけなければ、誰かの呼吸にも気づいていられない。同じ魂に生きていても、肺活量も、筋肉量も人によって大小があるように、肉体上で呼吸として展開されるときには個性として違いを生む。
[夕の瞑想]
仕事のことを考える自分がいる。呼吸を放り出して、考え事に夢中になる状態は、自分のために生きていると言える。先週はこれで、自己が肥大化し、死ぬことができなくなり、恥となった。やるべきことが増えたときや、夢中になるとき、自分はどんどん膨れ上がっていくが、今週は同じ轍は踏まないようにしよう。
隆慶一郎著「死ぬことと見つけたり」に登場する葉隠武士の”杢之助”を思い出す。杢之助の呼吸ほど、自己の色がなく、透明で、我執のないものはない気がする。呼吸を感じるとき肥大化しようとする自己も制することができる気がする。
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