宇宙の霊気をずっと浴びていられるほど肉体は丈夫にできていない。[731/1000]

一方の手の指で永遠に触れ、一方の手の指で人生に触れることは不可能である。人生に対する行為の意味が、或る瞬間に対して忠実を誓い、その瞬間を立止らせることにあるとすれば、おそらく金閣はこれを知悉していて、わずかのあいだ私の疎外を取消し、金閣自らがそういう瞬間に化身して、私の人生への渇望の虚しさを知らせに来たのだと思われる。人生に於て、永遠に化身した瞬間は、われわれを酔わせるが、それはこのときの金閣のように、瞬間に化身した永遠の姿に比べれば、物の数でもないことを金閣は知悉していた。

三島由紀夫「金閣寺」

この世を辟易するあまり、永遠を食い物にしたことは詫びよう。孤独な生命を痛めつける厳冬に避難したものの、季節を通して教わったことは、生活にはなにより太陽が必要ということだった。陽が昇らねば寝ざめが悪い。花も野菜も十分に育たぬ。衣服も乾かぬし身体も底冷える。太陽から逃げれば永遠に寄り添えると信じたこともあった。だが、宇宙の霊気をずっと浴びていられるほど、肉体は丈夫にできていない。生きとし生けるものは一つの例外もなく太陽の子だろう。陽の下での生活を愛すること以上の仕合せがいったいどこにあろう。陽の下での生活を愛せないこと以上の不幸がいったいどこにあろう。瞬間に化身した永遠の姿を土の生活に見出そう。

 

2024.6.19

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