森の生活から文明生活に適応した結果[573/1000]

森の生活から文明生活に戻り、どうやら頭に円形ハゲができたらしい。我ながら情けない肉体だ。

ショックはない。ハゲるのなら、いっそのことスキンヘッドにしてしまえばいいと考えている人間だ。みっともなくハゲを隠すくらいなら、スキンヘッドが似合うような、雄々しい顔立ちになるくらい、情熱に生きろと願う。

 

一般に円形ハゲは、ストレスによって起こるといわれる。私の認識はその程度だ。

極論を言ってしまえば、われわれ霊体にとっては、肉体という物質に縛られて生きること自体がストレスだ。ただ、そんなことを言ってしまえば元も子もないので、今朝は、円形ハゲの直接の原因となったであろう「異質な」ストレスを思い起こしてみることにした。

 

なぜ、こんな恥ずかしいことを言葉にしてみようかと思ったかといえば、過労に死にそうになっていたときも、鬱のときも、けっして円形ハゲにならなかった私が、幸福の渦中にいて円形ハゲになったことに、生物的な見えざる力を感じたからだ。

そして、「異質な」原因を考えてみて、思い起こすことは一つしかなかった。

 

私が導き出した「異質」とは、文明生活であった。2023年10月から12月までの3ヵ月、森に建てた電気もガスもない小屋で隠遁生活をした私は、2024年1月から実家に帰省している。なんだかんだ、既に3週間近く経ってしまったが、私の身体はこれを「異質」に感じた。

要するに、光と音が急激に増加し、肉体が悲鳴をあげたのである。

森にいたころは、電気のない暮らしをしていた。夕方5時になれば、陽が暮れる。陽が暮れれば、森小屋は真っ暗である。そのままでは本が読めないので、ヘッドライトの小さな灯りを本の上に注いだが、森の全域に存在した灯りは、これ一つだけである。夕方5時から寝るまでの4,5時間を、私は文字どおり”暗闇に身を包んで”生活した。

 

“暗闇に身を包んで”を強調したのは、ここが生物の神秘を考える鍵になるからである。

夕方5時を過ぎても光があり、深夜になっても「闇」を知らない文明生活に舞い戻ると、私はいちばんに、”皮膚が痛みを感じる”のを感じたのだ。まことに理解されがたい感覚かもしれないが、私は光に当たることに全身の細胞が痛がっているのを毎日感じた。

 

これと同じことが音にも言えた。森の生活には電気がないので、音楽すらも頭のなかで聴いていたくらいだ。音という音は、風の声と、葉擦れの音、小鳥の鳴き声くらいであった。文明生活に舞い降りて、音楽が奏でられ、テレビが騒がしい音を鳴らすと、私はここでも”皮膚が痛みを感じる”のを感じた。

全身の細胞は、「異質な」痛みを味わいつづけた。毎日7,8時間も光と音を過分に浴びれば、肉体にとっては地殻変動である。我が全身の細胞は、新世界の環境に順応するために、蓄積されたストレスを円形ハゲに現象化させたのである。

 

私はこの現象が非常におもしろいと思った。なぜなら、こういうことが言えると思うからだ。

私はテレビから発せられる音を好かない。ただし、実家にいるかぎりは、受動的にテレビの音を被る。テレビから発せられる音に対し、私はヘッドホンをして、耳から音が侵入することを防ぎ、精神的な防御はできる。ただし、私の胴体や腕、足たちは、音にさらされたままであり、この間もダメージを受けているのである。

 

また、こういうことも言えるはずだ。

われわれが眠るとき、電気をつけぱなしで寝ていれば、たとえアイマスクをして認識上は”暗闇”にあっても、胴体と四肢の細胞は、光を浴びつづけ、十分に休むことができない。胴体は、脳の認識とは切り離されたところでも呼吸をし、まるで独立して生きているようである。

 

***

 

文明生活が、自然において「異質」であることなど承知である。また、文明のうえに生きようと願うのなら、こうした「異質」に打ち勝たなければ、生命は敗北して死ぬのである。これは、環境に適応できないものや、環境の毒にやられるものは死ぬという自然界の掟をいうにすぎない。

 

ここで私は文明生活を「不自然」だと非難する意図はみじんもなく、単に、身の上に起こった現象に関心を抱いてみたまでである。そして、全身の細胞が生きていることを思えば、動画を見て旅をした気になることと、身をもって異国の風を浴びることの差を思い知るのだし、身体を労わって全身を湯につけることの価値を思えば、文明の毒にあえて身をさらし、強くならねばという考えも起こすことができるのである。

 

いずれにせよ、ハゲたならハゲたまま、何かを変えて肉体を療養するとかそういうこともなく、ただ肉体を目の前に世界にさらしていくだけである。異質だのなんだろうとそんなことは関係なく、肉体に縛られながら現象界を生きていること自体がストレスであり、生きることの宿命なのだから。

 

2024.1.14

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