森の小屋づくりをはじめた。遣り方といって、小屋を建てる外周に杭を打ち込み、バケツとホースを使って水平を出し、貫板を張って、水糸で直角を出した。これにより、傾斜のある森の一角に、うつくしい水平面が誕生した。
一つの点を基準に線ができあがり、一つの線を基準に面ができあがり、一つの面を基準に空間が定まり、一つの空間が家となる。そうして今度は、家を基準に生活ができあがる。毎日外へ働きに出て、日が暮れると同じ場所に帰ってくる。フーテンの人間が浮ついた人生をおくるのも、その生活に確固たる基準がないからである。無論、家などはこの世の借りものの基準点にすぎぬ。われわれの原点はビッグバンである。旅人が天に思いを馳せるのは、己のはじまりを確かめているからである。
水糸を張ったり、直角を出したりするのは、たいして難しいものではなかった。難しいと思えば難しくなるし、こんなのどうってことないと思えば、どうってことないのである。精神論というと、科学の欠損を思わせるが、実際、立ちはだかる障壁とは、己から発せられる気概に相対するエネルギーであるから、こちらが気を強く持てば障壁は簡単に乗り越えられる。
今度の小屋は、大引き工法、相い欠き継ぎで土台をつくる。小心者は言葉面でビビってしまうが、こんなものもやってみれば呆気なくできてしまうにちがいない。同じ人間、誰が劣り申すや。己のうちに高まるエネルギーを軽視する必要はない。どんな障壁も、気概で超えていけばいい。
2024.10.6