旅人は幸福を追い求めてはならなかった。[818/1000]

旅人は風となり空を追う。生活者は樹木となり、彼もまた空へと伸びる。遠く遠くをみつめて、及ばず。突風に揺さぶられ、落雷にへし折られ。夕焼けの向こう側に、淡い夢を見つづける。西洋に堕ちた旅人は陽気なヒッピーとなる。楽器を鳴らし、歌って踊り。心の奥底にエゴイズムを波動させ、堕落の末に破滅する。旅人は幸福を追い求めてはならなかった。旅人が追い求めるべきは不幸のほうであった。食い過ぎた幸福に、毒として紛れ込む、欺瞞という欺瞞を、もろとも焼き尽くすための不幸。何もかも灰塵と化した、静寂な大地の上に、吹きつける風が生活の種をこぼす。

2024.9.15