命の灯[427/1000]

自分という存在がかぎりなく小さくなって、命の灯さえ消えてしまいそうである。ほんの少し風が吹くだけで今にも消えそうな炎は、かつては多くの人間に囲まれてきたものであるが、今はなんとも孤独であり、このまま消えても誰も気がつくこともないであろうとさえ思う。

人を見守り、見守られてきた炎は、消えてしまうことを何よりも怖れたが、段々と炎が小さくなり人が離れていくにつれ、その恐れもなくなった。このまま消えてしまうことで、過去の記憶と、そのしがらみから解放されるのだとしたら、このまま燃え尽きてしまうのも悪くはない。

夏の花火が盛大に最後の一輪を咲かせたとき、その後に訪れる静寂には儚さを感じるものであるが、今にも消えかけそうな炭火が消えたところで、誰の心にも留まることはない。もしかすれば、たまたま通りすがった旅人が、消えそうな炭火を眺めて、その冷え切った両手をかざすかもしれないが、そうした旅人には、めぐりあうことさえもずいぶんと久しい記憶となった。かつてはそうして、旅人と深い雪の晩を共に明かしたものである。あのときも、私は今日と同じように今にも消えてしまいそうな炎であったが、旅人の冷えきった両手に存在の意味を与えられたようであった。不慣れな旅人が薪をくべたときには、私は大きく燃え上がり、旅人のズボンに穴をあけたことも懐かしい。旅人が採ってきた肉や魚を、香ばしく焼いてやったこともあった。

このまま静かに燃え尽きたいものであるが、消えそうで消えないものである。森の片隅でじりじりと燃えながら、今晩も月の下で孤独に燃えていよう。

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