秋がきたと思えば、もう冬が近づいている。寒い思いをすることが増えると、温かい家をもつ人間が、心底羨ましくてしかたがない。温かい味噌汁とご飯を作って、妻が帰りを待っている男が、羨ましくてしかたがない。子どもたちと一緒に湯船に浸かる父親が、羨ましくてしかたがない。
一日の終わりくらい、生活者は労われてしかるべきだろう。おれにはそんな生活がとても遠くに感じる。ほんとうに必要なときのために、暖をとるための薪を惜しんでしまう。浸かる湯船もなければ、熱々の晩飯もない。疲弊した肉体を、無造作に寝袋に寝かせ、熱が逃げないようにしっかり身を縮める。粗野といえば粗野だが、世の中にはもっと野良犬みたく地を這ってる人間もいる。閉ざされた空間で、孤独に暮らしている者もいる。
彼らのような人間にも、ちゃんと労いはあるだろうか。星が煌めく空の下、マリア様のような、大いなる母に、今日のありとあらゆる苦しみと、今日のありとあらゆる悲しみが受けとめられ、今日を懸命に生ききったことが、ねぎらわれているだろうか。寒さに凍えて眠りについても、空の向こう側で、魂は温もりを得るだろうか。
2024.10.10