このまま病院に通っていたら、生命が駄目になると思い、明日も来いという先生の言いつけを破り、仕事に出かけた。所詮は外傷。手術には医者の技術がいるが、治癒段階に入れば主導権は患者にある。毎日、泥だらけになって働くが、しっかり風呂に入れば、全然問題ないようだ。爺さん先生には、終始、不安を覚えっぱなしだったが、「武田信玄が強かったのは、負傷した兵士を皆、温泉にやっていたからだ」という話には心を打たれた。毎日ちゃんと銭湯に通うようになったおかげで、傷の治りも早くなっただろう。
休みの遅れを取り戻そうと怒涛の勢いで働くが、ついに疲労の限界がきた。畑の仕事は大したことないが、森の仕事にかなり苦労する。30メートル近いアカマツの伐採と抜根。3メートル間隔で玉切りした丸太を、死に狂いで転がして積んでいく。太いものは100キロを超えていると思う。全身の筋肉のすべてを使っても持ち上がらないが、危機的状況に人間が見せる、ほんの一瞬の底力を何とか絞り出して、やっとほんの少し持ち上がる。どうしても持ち上がらないものは、3メートルをさらに半分にして運ぶが、何十本も丸太を運んで積み上げるのは、まさに気力との戦いだった。そして次の伐採がはじまる。
ぶっ倒れそうだが、ぶっ倒れるのは男の本望だ。晩に美味い飯を作ってくれる女房がいれば、すぐに元気になれるのだろうが、そんなものがいない私は、しばらく一人でぶっ倒れているしかない。だが、それならそれでいい。いつもと変わらぬ、玄米と空心菜のスープを食って、もうしばらくぶっ倒れていよう。銭湯に来てみれば、ぶよぶよで締まりのない身体の男がなんと多いことか。たまに、よく陽に焼けたいい身体つきの農夫を見ると惚れ惚れする。俺も彼らに従おう。男は傷つき、ボロボロになればいい。
2024.9.17
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