怒りを失った人間に怒りを飛ばしてやろう[725/1000]

蛆どもよ!耳も眼もない哀れな兄弟分よ、

見るがよい、暢気で陽気な死人が一人、貴様らの処へいま来たぞ

放蕩の哲学者、腐敗の子、蛆どもよ、

 

僕の遺骸を遠慮なく探し廻ってみた上で、

教えてくれ、死んだが上にもまた死んで

魂抜けた老いの身に、残る悩みがまだあるか!

ボードレール「悪の華」

悪意とは、力のふりをした無力にほかならない。幻滅と失望を重ねるたび、力の信仰は揺らぎ放蕩な無力に流れるようになる。病の根源、無力が人間の身体を蝕むのを見た。正しい怒りは力の権化であった。義戦も免疫も力の僕であった。力を諦めたとき無気力は生れる。無気力が失う感情は怒りである。家族への怒り、友人への怒り、自分への怒り、社会への怒り、国への怒り。義しくあったはずの怒りを曲げてしまうとき、力の炎は小さく消えていく。俺たちはこの炎を絶やさぬよう、怒りを失った人間には、代わりに怒りを飛ばしてやらねばならん。聖火のごとく人類が繋ぎ、紡ぎあげてきた歴史を矜持に。俺たちは力の子だ。

 

2024.6.13

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