おれたちは渇いた風に晒されながら、天に向かう存在であることを忘れてはならないのだ。[821/1000]
男に”なる”という言葉がある。生まれながらにして授かる性別とは別に、男には勝ち取らねばならぬものがある。年盛りの頃は、肉体的に女を知ることで、男になると言われた。だが、もっと大きな意味として、立派…
男に”なる”という言葉がある。生まれながらにして授かる性別とは別に、男には勝ち取らねばならぬものがある。年盛りの頃は、肉体的に女を知ることで、男になると言われた。だが、もっと大きな意味として、立派…
このまま病院に通っていたら、生命が駄目になると思い、明日も来いという先生の言いつけを破り、仕事に出かけた。所詮は外傷。手術には医者の技術がいるが、治癒段階に入れば主導権は患者にある。毎日、泥だらけになって働くが、しっかり…
葉隠は、高慢によって高慢を超えていけという。エゴイズムによってエゴイズムを超えていく。人間の生活を願い、生活を築かんする私は、生活によって生活を超えていくことを志す。家を建てたり、畑をやったり、猟をやったり、土地深くに根…
旅人は風となり空を追う。生活者は樹木となり、彼もまた空へと伸びる。遠く遠くをみつめて、及ばず。突風に揺さぶられ、落雷にへし折られ。夕焼けの向こう側に、淡い夢を見つづける。西洋に堕ちた旅人は陽気なヒッピーとなる。楽器を鳴ら…
皮を食えば皮膚に効く。身は血を潤し、細胞を育む。芯は奥深く内臓を支え、種は命の源、力を紡ぐ。ゆえに、全てを丸ごと食う。野菜は皮のついたまま、リンゴは芯まで丸かじり。米は力の種となり、日本の精神、奥底に据わる。もし、日本人…
ようやく退屈な日を終える。親指の爪ひとつ剥がれただけだというのに、先生の言いつけを守って二週間も休んでしまった。たかが足の爪一つ、まだ完治はせぬが、あとは毎日風呂に入ってれば、そのうち治るだろう。言われたとおり、何度も病…
常住死身になることよって自由を得るというのは、「葉隠」の発見した哲学であった。死を心に当てて万一のときには死ぬほうに片づくばかりだと考えれば、人間は行動を誤ることはない。もし人間が行動を誤るとすれば、死ぬべきときに死なな…
秋のいい風が吹いている。稲穂の上を駆け抜けて、土の香りをすくいあげて、無力に怯える凡庸な魂に、平穏な一日を演出してくれる。足の怪我のために、畑で働くこともできず、家づくりを進めることもできない。死に場所を失えば、生の倦怠…
「ところで義兄んにゃ、こんな山の中で独りでランプ生活をしていて恐くないのか?」 と、一番知りたかったことをいきなり尋ねてみた。臆病な俺なら、一晩でも耐えられない。すると義っしゃんは、平然として言った。 「怖いごとなんて何…
足の怪我が長引いている。畑仕事はできぬし、森の整備も進まない。町のちいさな病院に通っているが、高齢の先生とのやり取りがおぼつかない。先生の奥さんは、我が子のようにとても良くしてくれる。近くの森に棲んでいる話をすると、(身…