もっと素朴に、健気に、自然に笑えたらと願う。[583/1000]
後ろの席のおじさんが、私にライターを見せ、盛んにジャポン、ジャポンと言う。これは日本製だぞ、と言いたいらしいのだ。受け取って、底の刻印を見ると、「MARMON」とある。そんな会社の名は聞いたこともない。しかし、これは日本…
後ろの席のおじさんが、私にライターを見せ、盛んにジャポン、ジャポンと言う。これは日本製だぞ、と言いたいらしいのだ。受け取って、底の刻印を見ると、「MARMON」とある。そんな会社の名は聞いたこともない。しかし、これは日本…
人間が「無力」になることは己の神を殺すことである。われわれ人間は、時間と空間をもった焔として現象界に投げ込まれ、死に向かっていく生命としての「力」を授かった。ゆえに、力を賛美して生きることは、神を讃えることである。無力に…
厳格な決めごとにも、一つ例外を設けてしまえば、みるみる崩れていってしまう。1000日間毎日つづけることと、適当に休みを取りながら、1000日間つづけることとでは、私には前者のほうが格段に現実的に思える。 なぜなら、前者に…
同情とは、同じ十字架を背負うことだ。同じ十字架を背負うとは、俺もお前と同じ苦しみを背負う人間だと認め、肉体を一にすることだ。肉体が一になるからこそ、魂のレベルで繋がり、頑張ろうという勇気が湧いてくるのだ。同じ痛みを味わっ…
旅は人を「生活」から解放する。生活とは、常識のシナプスだ。 生活から解放されることで、凝り固まった脳糸はほぐれ、隙間に新たな風が吹きこむのである。脳糸がほぐれ、一つ、またひとつと新たな形に紡ぎ直されると、世界が広がってい…
ホッ、と息をついた、まさにその瞬間、激しい衝撃を受けた。 バスの運転手がまた例のレースをやり、前を走るバスに並び、さらに追い抜こうとして、大きく廻り込んだ直後のことである。 ガーンという音と、白い乗用車が路肩に飛び出した…
信じることよりも、信じないことのほうが容易い。愛することよりも、愛されようとすることのほうが容易い。戦うよりも、弱音を吐いているほうが容易い。素朴な慣習も、洗練された慣習の前では、奪われるに容易い。空を静かに見上げるより…
生活のある者は、「日」の単位で旅をする。少しがんばって休みを捻出できたときにかぎって、「週」の単位で冒険する。生活から距離を置いた者は「月」の単位で旅をする。私が東南アジアを貧乏周遊したときも、オーストラリアをヒッチハイ…
正月に兄と再会したとき、古びた鳥かごに、小鳥を一匹つれていた。話を聞くと、飼っているという。南国らしい、黄色い模様の美しい鳥であった。 私は、鳥かごを開けて、小鳥を大空に逃がしてやりたい衝動に駆られた。地球…
森で隠遁生活をしていたとき、現実と夢が入れ替わった。 かつて幻だと認識していたものが、色彩と輪郭をはっきりと帯びた現実となり、逆に現実だと思っていたものが、曖昧な幻となった。世俗に舞い降りて3週間、再び、現実と幻が入れ替…