諦観[647/1000]
私の海の深くを、諦観が泳ぎはじめたのはいつからだろう。 私には数千万もする家は必要ない。10平米にも満たない小屋を建てれば、お金は10万円もかからない。何より私の心は、このほうがずっと清らかである。 私には…
私の海の深くを、諦観が泳ぎはじめたのはいつからだろう。 私には数千万もする家は必要ない。10平米にも満たない小屋を建てれば、お金は10万円もかからない。何より私の心は、このほうがずっと清らかである。 私には…
おお、「死」よ、老船長よ、時は来た!錨をあげよう! 僕らは退屈だ、この土地で、おお「死」よ!船出をしよう! 空と海、よしたとえ、インクのように黒くとも、 そなたが篤と知っている僕らの心は光明で一杯だ! おお…
一〇九 破壊 ひっきりなしに僕の身近で「悪魔」奴が騒ぎ立て、 つかまえ難い空気のように、僕の周囲を暴れまわる。 嚥み込むと、僕の肺を焼き、罪深い永遠の欲望と化って 胸一ぱいに満ち溢れる気持だ。 「芸術」に対…
神は、昼と夜と同じく、労働と休息とを交互に人間に課しておられる。今や眠りの露が時刻にふさわしく降りてきて、柔らかく、重く、われわれの眼瞼を眠りへと誘っている。他の生きものは別に仕事もなく、ただぼんやりと終日彷徨っているに…
風はどこからやってきて、どこへと去ってゆくのだろう。春のつめたい息吹が、ねぐらから顔を出す動物をおちょくっている。暗い土壌の下では草木が芽吹きの支度をととのえて、天井を突き破り燦々とかがやく陽光を浴びる日を、今か今かと心…
一〇 蓋 暑い国、寒い国、海の上、陸の上、 何処にいようと、 キリストの下僕だろうと、ヴィナスの下臣だろうと、 むさくるしい乞食だろうと、緋衣の富豪だろうと、 都会人だろうと、田舎ものだろうと…
海外を旅していると「お前はどこの国の人間だ」とよく聞かれる。私は「ジャパン」と答えるが、ジャパンと言葉にするたびに、果たして俺は日本人を名乗る資格があるだろうかと頭を悩ませてきた。無論、私は生れも育ちも日本である。日本の…
自分が自分を赦す存在になることよりも、人間を赦す大きな存在のもとに生きるほうがずっと大事ではなかろうか。 仮に自分で自分を赦したとて、原罪が消えるわけではない。涅槃に到達するわけでもない。欲望の炎は臓腑を焼きつづける。非…
国のために働くことと、社会や地域のために働くことは似ているようで別物である。国のために働くことは「義」であり、社会や地域のために働くことは「愛」である。今日「社会のため」「地域のため」とは言っても、「国のため」と言葉にす…
男は自分の情熱に酔い、女は男の情熱に酔う。男がいなくなれば、女は自分の情熱に酔うしかないのである。ゆえに男は男でありつづけるために、己の情熱に責任を持たなければならない。男にとって人生とは女である。女から発せられる魅惑に…