屋根を張り終えた。下から張っていった最後の一枚、てっぺんの合掌部分が難しかった。屋根の上は眺めがよく、無心で玄翁を叩く時間はとても仕合せだった。毎日が家づくりで、森の生活は平穏である。最近、近所のお爺ちゃんがよく遊びにくるようになった。道具を貸してもらったり、ストーヴを貰ったり、よく世話になっている。
爺ちゃんから昔の話を聞く。戦前、この一帯は森であったが、戦争から帰ってきて、実家を追われた次男坊らによって開拓された。開拓期は、地面を一メートル掘って、縄文時代のような茅葺屋根の竪穴住居に住んでいたらしい。地面からの湿気はあるが、十分温かかったという。春になると木の皮をじょうずに剥いで、屋根の代わりにした。物も食い物もない時代だから、あるものは何でも使った。
私のような堕落した現代人は、昔の話を聞くと、そんなことできやしないと感じてしまう。木の皮を剥いで屋根にするよりも、店で買ってきた屋根材を使ってしまいたい。手鋸だけでなくチェーンソーも使う。断熱材にも手を出さざるを得ない。時代の波に抗って素朴に生きているつもりでも、昔の人と比べればしっかりと堕落している。昔の人はすごいなあ、という月並みな感想の裏側で、敗北と無力感が静かに渦巻いている。ほんとうはその渦の中心に、力のエキスを一滴垂らしてやりたいというのに。無自覚の上に力を築くのではなく。そのための葉隠ということだ。
2024.12.12