無邪気な希望たちよ[900/1000]

ついに明日、上棟の日を迎える。上棟と偉そうなことを言っても、複雑な骨組みをしていくわけではなく、四つの三角軸組を立ち上げて、家の骨格をつくりあげるのである。もっとも、上棟は上棟。建物が立ち上がる瞬間は、どんな家においても格別である。これまでの苦労が報われるようで、嬉しいのは当然のこと、家屋に宿る神に祈りを捧げ、安全と繁栄を祈るたいせつな節目でもある。

思えば、森の木々を勝手に倒し、その場所に家をつくりはじめてしまった。森の精霊たちは怒ってはいないだろうか。先日、不意に現れた野猫に、傲慢な振る舞いをしてしまった。腹を空かせていた野猫を、声をあげて追い払ってしまったのだ。もしかしたらあの野猫は、森の精霊が化身として、使いをよこしたものではなかったか。この塵垢にまみれた心をただすため、おとずれた天機ではなかったか。

今日から一段と寒さが増したが、あの野猫は今ごろどうしているだろう。腹を空かせながら森をさまよっているか。寒さをしのぐための場所を探しているか。強大な冬をあいてに、共に力強く生きようとする生命がいるだけで、涙が出るほど心強いというのに。ほんとうに可哀想なことをした。まったく自分が情けなくてしかたない。どうか生き延びておくれ。森の生き物たちよ。無邪気な希望たちよ。

 

2024.12.6