陰極まれば陽に転ずる。[881/1000]

太陽が沈むと、再び太陽が昇るまで、世界は熱を失いつづける。もし、翌日太陽が昇らなければ気温はさらに下降し、氷点下にすぐに到達してしまう。人間の体温も同じで、断続的に低温にさらされつづけることのほうが、局所的な極寒よりもずっと苦しいのである。中断されなければ、どこまでもどこまでも下降する。そうして、陰極まれば陽に転ずる。悪意に犯されたときもまた、ずっと独りでいると気が狂いそうになるが、健全な人と話すことで正気を取り戻す。いっぽう、隠遁生活に価値があるとすれば、魂が俗世に中断されないことである。狂気へ、死へ、永遠へ、生命は孤高独立に燃えていく。芸術を愛した人間は、そうして死んでいったのではなかろうか。健全な人間が、真昼間によく働いて、夜にぐっすり眠る間に。ある日は延々と陽に焼かれ、ある日は延々と月に沈んでいったのではなかろうか。

ずいぶんと寒くなり、まもなく畑の仕事が終わる。生活者としての昼が終わり、とても孤独な、長い夜がやってくる。

 

2024.11.17