世界がどれだけ忘れても、この身からは奪えまい。[745/1000]

すべての書かれたもののなかで、わたしが愛するのは、血で書かれたものだけだ。血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。

ニーチェ, 「ツァラトゥストラはこう言った」

科学は夜を駆った。この世は眩しすぎるほど明るい。街は眠りを忘れ、蝶蝶に興じる。俺は夜に焦がれて森に身を沈めた。昼の労働を終えた森では、鳥も獣も植物も、皆安らかに眠りにつく。闇に身体が溶け出すと、月の明かりに掬われる。生から死を、死から生を切り離した瞬間に、肉体と魂が乖離するのなら、俺はますます猟師に憧れる。生身の身体を持つ以上、死に結合し連なる何かが、人間の心には必要だ。かつて氏神信仰に生きた。万世一系の天皇に服し、戦いに身を捧げた。世界がどれだけ忘れても、この身からは奪えまい。桜が散るかぎり、意志は永遠を廻る。暗く深い夜の森で、小さな炎を灯すのだ。

 

2024.7.3

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です