生活の仕合せ[673/1000]

さて、俺一人の身を考えてみても、先ずこの世には未練はない。仕合せなこと事には、俺はもう苦しまないで済むのだ。ただ、俺の生活というものが、優しい愚行のつながりであった事を悲しむ。

ランボオ「地獄の季節」

肉体の完成など仙人の所業であろうに、どうして倦怠はこうもまとわりつくのか。倦怠、善人を取り込み狂気を植え付けた。平和に見せかけた忘却。幸福を真似た肥満。俺たちは仮面を被りつづける。この世が狂っていくというのなら、俺は困窮した日々にさえ懐古の情を抱く。米粒一つ無駄にするな。落としたものも洗って食え。ボロ座布団ひとつにしたって、手で繕うてやり繰りしていた日々は美しかった。子供の顔はよく日に焼けて、一日の終わりを告げる夕暮れを悲しんだ。そうして故郷はいつも記憶のなかにあった。ああ、俺たちの故郷。麗しきそなたは一体はどこへ行ってしまった。記憶の海を手繰り寄せる。俺はこの世に未練しかない。俺は生活のなかに仕合せをみつけたいのだ。人間の大地を讃える詩を。

 

2024.4.22

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