成熟した精神-この瞬間から疲労を吹き飛ばす[848/1000]
ついに肉体も限界を迎えたか。肚の気力が雲散霧消し、身体が激しく眠りを要求している。昨日、早朝から働き通しで、家づくりに使う束石を十個ほど運搬していたところ、私の運転する軽トラが遅かったために、後続車に煽られた。その瞬間、…
ついに肉体も限界を迎えたか。肚の気力が雲散霧消し、身体が激しく眠りを要求している。昨日、早朝から働き通しで、家づくりに使う束石を十個ほど運搬していたところ、私の運転する軽トラが遅かったために、後続車に煽られた。その瞬間、…
幸福の毒性を誰が信じよう。おれには人のオーラなんぞ見えないはずだが、くすんだ色合いはよく分かる。色の混ぜ過ぎ、これは虚飾。実際、女手一つで子を育てる貧しい暮らしぶりの母よりも、ある程度、金を持った”進歩人気取…
労働にいそしむ日がつづく。森の家づくりも基礎工事にはいった。穴掘り、砕石運び、転圧、家づくりのなかで最も過酷な場面である。玄米と野菜、それから肉をしっかり食って精を養う。肉体労働者にとって食事は命である。一日一食しか食わ…
哀しみが宇宙にこだまする。そのすぐ下を、ひとの笑いが颯爽と駆け抜ける。他愛もない友との会話も、せんじ詰めれば、われらの故郷に想いを馳せるためにある。現世で遭遇した光の数々と、脳髄の記憶が流れゆく先に。可笑しな日常を笑い合…
森に珍客が訪れる。木霊が静まり返る闇に、一点の火が灯った。火を囲って踊ろうか。酒を飲んで語ろうか。たいそうな肉をご馳走になり、痩せ細った身体は久々の糧をえる。 おれたちは何に酔い痴れる。自然を克服したことを自らに言い聞か…
秋がきたと思えば、もう冬が近づいている。寒い思いをすることが増えると、温かい家をもつ人間が、心底羨ましくてしかたがない。温かい味噌汁とご飯を作って、妻が帰りを待っている男が、羨ましくてしかたがない。子どもたちと一緒に湯船…
つめたい秋雨がつづく。カッパを通りこして全身びしょ濡れになる。寒さで感覚がおぼつかない手で包丁を握り、夜明け前の闇にむかってブロッコリーを収穫していく。心が弱気になりそうになるときは「麦と兵隊」を歌う。死地に向かって、道…
学校における、子どもの高貴とは何だ。先生に言われたことに素直に従うことか。不平不満を垂らしながら反発することか。世界の不条理に直面したとき、愚痴をこぼしたくなるのは大人になっても同じだ。だが、表面上は真っすぐ従いながらも…
森の小屋づくりをはじめた。遣り方といって、小屋を建てる外周に杭を打ち込み、バケツとホースを使って水平を出し、貫板を張って、水糸で直角を出した。これにより、傾斜のある森の一角に、うつくしい水平面が誕生した。 一つの点を基準…
冷たい秋雨に打たれながら、闇に潜ってブロッコリーを穫っている。手が冷たくて痺れる。服が下まで濡れて、身体が芯から冷えている。セテムブリーニ氏だったら、これを人間の屈辱だと憤るだろう。身体が冷えてどうしようもなくなると泣け…