諦観[647/1000]

私の海の深くを、諦観が泳ぎはじめたのはいつからだろう。

 

私には数千万もする家は必要ない。10平米にも満たない小屋を建てれば、お金は10万円もかからない。何より私の心は、このほうがずっと清らかである。

私には酒池肉林のご馳走が必要ない。一日に玄米を2合と味噌と少しの野菜があれば事は足りる。これで腹は満たされて、身体も丈夫となってゆく。

私には華美な服が必要ない。寒さから身を守れる服が2、3着あれば、私の身体は自然から守られる。

私には電気もガスも必要ない。暗くなったら寝て休めばいい。蝋燭で本を読むための小さな灯りさえあれば十分である。

私には洗練された電子機器が必要ない。世界のことを知ったつもりにはなるまい。ほんとうに世界のことを知るならば、読書の他に何があろう。

私には医者にかかる必要がない。自分が自分の医者である。得体の知れない青い薬を飲むのは、ほんとうにどうしようもない時だけである。

私には風呂が必要ない。川で水浴びすれば身体は清潔を保てる。ほんとうに入りたいときにだけ、月に一度銭湯に行けばいい。何より素朴な生活をしていると、身体から不快な成分が分泌されなくなっていく。

私には派手な娯楽が必要ない。森や自然をじっくり観察し、哲学に耽ることが心の底から湧き出る至福の泉である。

 

森に小屋をつくった今、金がほとんど必要ない。食うためだけならば、月に6000円あれば十分だ。国から課せられる税金を支払うために3万円が必要となるだけだ。

私には金を稼ぐための労働がほとんど必要ない。週に2日も働けば生活は充足し、週に3日も働けば、数万円貯金される。

私には不安に苛まれる必要がない。太陽と大地のもとに生き、自然の周期に死んでゆく。魂は哀めど、憂いはどこにあるだろう。

 

私は私を必要としない。私は天を必要とし、天のなかにいる私を必要とする。

私は森を必要とする。霊薬が零れる、静謐な森を。素朴で力ある人間の森を。

私は友を必要とする。この世の出会いたる、かけがえのない知己を。死んでもなお、永遠を旅しつづける書物を。

 

2024.3.27

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