言うなかれ 君よ 別れを
世の常を また生き死にを
海ばらのはるけき果てに
今や はた何をか言はん
熱き血を捧ぐる者の
大いなる胸を叩けよ
満月を盃にくだきて
暫し ただ酔ひて勢へよ
わが征くはバタビヤの街
君はよくバンドンを突け
この夕べ 相離るとも
かがやかし南十字を
いつの夜か また共に見ん
言うなかれ 君よ 別れを
見よ 空と水うつところ
黙々と雲は行き
雲はゆけるを
大木惇夫, 「戦友別盃の歌」
罪を感じねば人間を失う。恥を忘れても人間を失う。だが何より、戦いをやめることが、最も人間を失う。私にとって罪とは、戦いを放棄することである。私にとって恥とは、尻尾を巻いて逃げることである。戦いつづけるかぎり、胸を張れる。怒りも苦しみも敗北も傷痕も、すべては年月のなかで誇りへと昇華されてゆく。私にとって戦いとは力の道を踏襲することである。命の燃えゆくところをたどる神との戦いである。真に人間を愛する孤独の涙である。
2025.2.3