幼子は母に言う
パンはどこ、ぶどう酒はどこ、と。
都の広場で傷つき、衰えて
母のふところに抱かれ、息絶えてゆく。
哀歌 2.12
日が沈み、夜が森を覆った。
無邪気な小鳥たちは、身を潜め、気配を消して、
光のない時間を、無事にやり過ごそうとしている。
時折聞こえてくる、痛々しい獣の叫びは、
死に別れた母の悲しみか。
かじかむ手と、飢えた身体を、静謐な火のちかくに寄せて、
闇のなかへ消えゆく痛みを、おれはじっと見つめている。
日常に狂いゆく生命は、哀しい夜に救われる。
哀しい風が吹いてく先へ、真っ暗な森のなかへ委ねられてゆく。
2025.1.26