哀しい夜に救われる。[950/1000]

幼子は母に言う

パンはどこ、ぶどう酒はどこ、と。

都の広場で傷つき、衰えて

母のふところに抱かれ、息絶えてゆく。

哀歌 2.12

 

日が沈み、夜が森を覆った。

無邪気な小鳥たちは、身を潜め、気配を消して、

光のない時間を、無事にやり過ごそうとしている。

時折聞こえてくる、痛々しい獣の叫びは、

死に別れた母の悲しみか。

かじかむ手と、飢えた身体を、静謐な火のちかくに寄せて、

闇のなかへ消えゆく痛みを、おれはじっと見つめている。

日常に狂いゆく生命は、哀しい夜に救われる。

哀しい風が吹いてく先へ、真っ暗な森のなかへ委ねられてゆく。

 

2025.1.26