大人たちの堕落を思えば丸坊主の少年はどれほど綺麗な魂をもっているだろう。[730/1000]

父の司っている死の世界と、若者たちの生の世界とが、戦争を媒介として、結ばれつつあるのを感じていた。私はその結び目になるのだろう。私が戦士すれば、目の前のこの岐れ道のどっちを行っても、結局同じだったことが判明するだろう。

三島由紀夫「金閣寺」

 

秩序を失えば宇宙は瓦解する。宇宙の軌道から放り出された旅人は当てのない砂漠を彷徨う。慢性的な孤立も、もとを辿ればちいさな伝統破壊であった。神に背いた報いは、この世に己が存在することの否定である。放埓に伏すものは、忘却の他に罪から逃れる術を知らない。子どもの時に教わったことを何ひとつおぼえていない大人の堕落を思えば、時間と規則をたいせつにする丸坊主の少年は、どれほどの綺麗な魂をもっていることだろう。知恵の果実も堕落の味も知らぬ。生まれ育った故郷の地で、おとなたちの言うことに真摯に耳を傾ける、われわれは皆、運命の僕であった。絶望に泣くのはよしてくれ。俺たちは皆、秩序に身を投じながら宇宙を再構築している。これまでが壮大な運動律、己の宿命であったことを春は告げよう。さあ周期に戻ろう。

 

2024.6.18

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です