恥じるより誇るべきだった[728/1000]

初夏だ。陽気な祭りが始まる。森に野兎が来訪し、ホトトギスが鳴いている。見て愉しみ、聴いて慰み、食って元気になる。科学と進歩の世界のなかで、居場所のない人間は百姓の魂に救われた。日本国では無価値な人間も、自然国では存在そのものが肯定される。何気ない呼吸は植物を生かし、糞尿はその肥やしとなる。大地の呼吸の上で、宇宙の運動律の一部となり、俺たちは安らかに眠ることができる。ああ、なんと有難いことだろう。どんな落ちこぼれにも、犯罪者にも、温かい居場所がある。大自然の大慈悲に包まれて、生活は死を知り生を得る。思い返せば絶望は百姓の魂を軽んじたことからはじまったにちがいない。恥じるより誇るべきだった。生活の労苦を。生活の叡智を。

 

2024.6.16

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