あの偉大な破壊の下では、運命はあったが、堕落はなかった。無心であったが、充満していた。猛火をくぐって逃げのびてきた人達は、燃えかけている家のそばに群がって寒さの煖をとっており、同じ火に必死に消火につとめている人々から一尺離れているだけで全然別の世界にいるのだった。偉大な破壊、その驚くべき愛情。偉大な運命、その驚くべき愛情。それに比べれば、敗戦の表情はただの堕落にすぎない。
坂口安吾「堕落論」
風は人間に青春を吹き込む。熱き風、儚き風、清き風、麗しき風、哀しき風。風によって生かされ、風が止めば堕落がはじまる。停滞と無力が心臓を蝕み、肺や胃へと浸食していく。風を運ぶために言葉を紡ぐ。嘆きが停滞と無力の溜息なら、言葉は力と風の精霊だ。価値ある生へ向かう言葉、胸を熱くする言葉、勇気を紡ぐ言葉、重力と堕落に抗う言葉。誇りと精神に向けて、堕ちたなら堕ちたなりに一つを転がす。偉大な運命。ただ風に運ばれて。山を越え、海を越え、遥か彼方へ。
2024.6.8
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