俺たちは無為を怖れたのでなく、存在の一部を喪失することを怖れた。[704/1000]

科学の足は遅すぎる。祈願は疾駆し、光は轟き、……それも俺には解っている。あんまりたわいがない、暑苦しい。

ランボオ「地獄の季節」

進歩に楯突き、無為の手に堕ちたとはいえ、森に拾われたのは唯一の救いであった。自然には地水火風のすべてがある。俺たちは無為を怖れたのでなく、存在の一部を喪失することを怖れた。ゆえに進歩の論理と街並に、身も心も売ってしまえば、じっとしていることが怖ろしくなる。あの世から手が差し伸べられ、心臓を掴もうとする。まるで欠けた一部を取り戻さんとするように。

 

2024.5.23

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