人生は一行のボオドレエルにも若かない②[645/1000]

一〇九 破壊

ひっきりなしに僕の身近で「悪魔」奴が騒ぎ立て、

つかまえ難い空気のように、僕の周囲を暴れまわる。

嚥み込むと、僕の肺を焼き、罪深い永遠の欲望と化って

胸一ぱいに満ち溢れる気持だ。

 

「芸術」に対する僕の深い傾倒を知る彼奴、

時々、絶世の美女に化けたりして、

偽君子の巧言まことしやかに、

僕の唇を破廉恥な媚薬に慣れさせる。

 

彼奴また、「神」の見張から遠い所へ僕を連れ出し、

疲労困憊、気息奄々たる僕を、見る限り

広漠たる「倦怠」の曠野に立たせ、

 

恥じてもだえる僕の眼中、投げつける

汚れた衣服、開いた傷口、さては、

「破壊」に用いた血まみれの道具!

 

ボードレール「悪の華」

 

社会は道徳の箱のよう。箱開ける眼は空を見る。どこにいるかも分からない、見えない神を拝むため。それが、パンドラであろうとも。

悪人つくる道徳家。悪の密を締め出すと、小綺麗な皿の上に乗せ、汚れた舌で嘗めまわす。

窃盗も横領も、見事にしくじった。脇腹に根づいた悪魔の囁きに、倦怠は抗うすべを持たなかった。

遠心力が働いて、外へ外へと弾かれる。振り絞られる悪の密に、みるみる道徳家は肥えてゆく。

 

熱狂の後にまとわりつく寒さを、永遠の炎で溶かしてしまいたかっただけなのだ。

だが、正直者であることが救いだった。悪の烙印を背に圧され、悪魔は慄き去ってゆく。

乾いた突風が家を壊し、寒空の下に放り出された。世間から蔑まれ、野良犬のように地の骨をかじる。

道徳家は密を吸い、偽善の香りを漂わす。悪人は蜜吸われ、大地を足で踏みしめる。

 

更生!生命の生命たる第一歩を、私はここで見届けよう。

 

2024.3.25

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です