一〇九 破壊
ひっきりなしに僕の身近で「悪魔」奴が騒ぎ立て、
つかまえ難い空気のように、僕の周囲を暴れまわる。
嚥み込むと、僕の肺を焼き、罪深い永遠の欲望と化って
胸一ぱいに満ち溢れる気持だ。
「芸術」に対する僕の深い傾倒を知る彼奴、
時々、絶世の美女に化けたりして、
偽君子の巧言まことしやかに、
僕の唇を破廉恥な媚薬に慣れさせる。
彼奴また、「神」の見張から遠い所へ僕を連れ出し、
疲労困憊、気息奄々たる僕を、見る限り
広漠たる「倦怠」の曠野に立たせ、
恥じてもだえる僕の眼中、投げつける
汚れた衣服、開いた傷口、さては、
「破壊」に用いた血まみれの道具!
ボードレール「悪の華」
社会は道徳の箱のよう。箱開ける眼は空を見る。どこにいるかも分からない、見えない神を拝むため。それが、パンドラであろうとも。
悪人つくる道徳家。悪の密を締め出すと、小綺麗な皿の上に乗せ、汚れた舌で嘗めまわす。
窃盗も横領も、見事にしくじった。脇腹に根づいた悪魔の囁きに、倦怠は抗うすべを持たなかった。
遠心力が働いて、外へ外へと弾かれる。振り絞られる悪の密に、みるみる道徳家は肥えてゆく。
熱狂の後にまとわりつく寒さを、永遠の炎で溶かしてしまいたかっただけなのだ。
だが、正直者であることが救いだった。悪の烙印を背に圧され、悪魔は慄き去ってゆく。
乾いた突風が家を壊し、寒空の下に放り出された。世間から蔑まれ、野良犬のように地の骨をかじる。
道徳家は密を吸い、偽善の香りを漂わす。悪人は蜜吸われ、大地を足で踏みしめる。
更生!生命の生命たる第一歩を、私はここで見届けよう。
2024.3.25
コメントを残す