素っ裸となった傷だらけの生身を、乾いた風で拭いてやろう。[805/1000]
日ごとに憂いは滝となって降りかかり、不穏な情勢に胸はざわつく。ああ、こんなにも空は晴れているというのに。押し寄せる悪意が人間を地上に縛りつける。右に揺られ、左に揺られ。それでもおれたちは、きよらかな光を放すまいと、屈折を…
日ごとに憂いは滝となって降りかかり、不穏な情勢に胸はざわつく。ああ、こんなにも空は晴れているというのに。押し寄せる悪意が人間を地上に縛りつける。右に揺られ、左に揺られ。それでもおれたちは、きよらかな光を放すまいと、屈折を…
8月いっぱいで畑の仕事を終えた。なぜ、あんなにも感謝されたのか分からぬまま。ひとえに、ご夫婦の人柄によるものだろう。だが、もし感謝される原因の0.001%が私にあるのだとしたら、己のすべてを仕事に捧げたことの他に、思い当…
感情とは無責任なものである。熱すれば聞こえのいいことを言い、冷めれば真逆のことを言う。ゆえに、約束や規律、恩の貸し借りに行動の基準を置く。貰ったものは返すこと。一度定めたことは、何があっても守ること。感情の起伏に関係なく…
玄米を食えぬ日がつづく。食の多様化によって、米を食わずとも容易に腹は満たせる時代だが、米しか食ってこなかった人間にとっては、米が食えなくなることは食を断たれることと同義である。苦しいが、苦しいときは、もっと苦しい境遇にい…
「その猪の肉ない、裏の物置に吊るしておいたんだわい。まだいっぺ吊るしてあっぞい」 「へーえ。たまげたなあ。どうして腐んなかったんだろう?」 「わげね。腐んねえようにしてあんだ。ぶづ切りした肉に塩まぶしてない、それを縄でき…
畑で働きはじめて早一ヵ月。早朝、数時間だけ働いて、それからは森に家をつくるために、木を伐ったり、整地したりしている。一日数千円だけでも、収入があると安心するものだ。いくら水道光熱費や、食費がかからないといっても、完全に金…
胸高直径40センチのアカマツの抜根作業も今日で三日目となる。果てしなく思われたが、スコップで地道に土を掘り起こす一杯の積み重ねで、ようやくあと少しのところまできた。人力ではできないと言われることも、重機のない昔の人間は当…
米が尽きようとしているが、どこに行っても米がない。パンやうどんで腹は満たせるが、腹が満たされることと、精神に蓄えられることは別である。私が玄米を好むのは、飢えをしのげることに限らず、心までもが生き生きと力強くなるからであ…
小屋づくりに向けて、森を整地している。直径40センチあるアカマツの抜根作業は果てしなく、疲れて動けなくなるとハンモックに横になり、どういう風に家を建てようか思案する。 世界を見渡せば、自ら家をたてる人間は意…
ドドドーンという凄まじい地響きとともに、アカマツの大木が倒れる。切株のあたりから放たれる松脂の甘い香りが、暖かい風に乗って森中を満たしているのが何とも心地よかった。斧で刈り取ったアカマツの梢を、切株の裂けめに刺して合掌す…