「一寸千貫」という言葉がある。一寸角(3.3cm)の木材は千貫(3,750kg)の重みに耐えられるという意味だ。ただし、柱は真っすぐ立っていなければならない。少しでも傾いてれば、力を正しく受けきることができなくなる。
私のつくる小屋は、90角のヒノキ、20個の束柱で支えられている。土台部分に使われる束柱は14本、大引き部分が6本。特に荷重のかかる両側は10箇所である。両側だけでも、一寸千貫に照らし合わせると、37トンの重みに耐えられる計算になる。
現代科学と照らし合わせても、木の力は証明される。ヒノキの圧縮強度は20N~30N/㎟と言われる。これは、1㎟あたり20N(約2キロ)支えられるということだ。計算すると、90角1本で約16トンは支えられる。10本あれば160トンだ。
当然だが、柱に傾きがあれば力を正しく受けきれず、簡単に倒れてしまう。一寸千貫とは、木の強さを言い表す言葉であると同時に、真っすぐ立つことの大切さを重んじる言葉にも感じる。無論、われわれ人間への教訓としても深い感動がある。背が丸くなり、縮こまれば、何をしようにも気持ちは萎縮し、億劫になり、ちょっと押されただけで、すぐに倒れてしまう。
だが、ただしい心持ち、ただしい姿勢で在るならば、天から降り注ぐ荷重を、足の裏を通じてしっかり大地で受け止めることができる。神社にそびえ立つ杉は天地を真っすぐに繋いでいる。人間の力強さ、凛々しさ、美しさ、武士道のような気高き精神は、このようにして誕生する。
2025.1.30