善い人間であろうと多くの徳を抱え込むほど身を蝕んでしまうことがある。[652/1000]
わが兄弟よ、あなたがひとつの徳を持ち、それがあなた自身の徳であるなら、それは他のびととも共有すべき性質のものではない筈だ。 多くの徳を持つということは、りっぱなことだ。だがそれは重大な宿命である。そのために…
わが兄弟よ、あなたがひとつの徳を持ち、それがあなた自身の徳であるなら、それは他のびととも共有すべき性質のものではない筈だ。 多くの徳を持つということは、りっぱなことだ。だがそれは重大な宿命である。そのために…
わたしの言うことを信じるがいい、わが兄弟たちよ!身体に絶望したのは身体であったのだ、―その身体が、こうして錯乱した精神の指でもって最後の壁を手探りしたのだ。 わたしの言うことを信じるがいい、わが兄弟たちよ!地上に絶望した…
わたしはきょう、ひとりの悲壮な者を見た。ひとりのおごそかな者、ひとりの「精神の苦行僧」だ。おお、わたしの魂は、かれの醜さのために、何と笑ったことか! 多くの醜い真理を、狩猟の獲物としてつるさげ、衣服は幾重にも裂けていた。…
今朝、起きて間もなく、重たい瞼をこじ開ける、無邪気な朝日に思わず笑ってしまった。私は朝日をまえにして、笑ってしまうことがよくある。夕暮れや星屑を見て笑うことはあまりないが、朝日だけはどうも笑ってしまう。そして、笑ってしま…
眠ることは、決して容易なわざではない。そのためには、なにしろ一日じゅう起きていなければならない。 また一日に十回も、あなたは克己に努めなければならない。そうすれば快い疲労が生じるが、それは魂を眠らせる阿片なのである。 十…
私の海の深くを、諦観が泳ぎはじめたのはいつからだろう。 私には数千万もする家は必要ない。10平米にも満たない小屋を建てれば、お金は10万円もかからない。何より私の心は、このほうがずっと清らかである。 私には…
おお、「死」よ、老船長よ、時は来た!錨をあげよう! 僕らは退屈だ、この土地で、おお「死」よ!船出をしよう! 空と海、よしたとえ、インクのように黒くとも、 そなたが篤と知っている僕らの心は光明で一杯だ! おお…
一〇九 破壊 ひっきりなしに僕の身近で「悪魔」奴が騒ぎ立て、 つかまえ難い空気のように、僕の周囲を暴れまわる。 嚥み込むと、僕の肺を焼き、罪深い永遠の欲望と化って 胸一ぱいに満ち溢れる気持だ。 「芸術」に対…
神は、昼と夜と同じく、労働と休息とを交互に人間に課しておられる。今や眠りの露が時刻にふさわしく降りてきて、柔らかく、重く、われわれの眼瞼を眠りへと誘っている。他の生きものは別に仕事もなく、ただぼんやりと終日彷徨っているに…
風はどこからやってきて、どこへと去ってゆくのだろう。春のつめたい息吹が、ねぐらから顔を出す動物をおちょくっている。暗い土壌の下では草木が芽吹きの支度をととのえて、天井を突き破り燦々とかがやく陽光を浴びる日を、今か今かと心…