人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。そこに早く気がつかないと、不幸な一生を送ることになる。[809/1000]
昔のことだが、私は信州の安曇野というところに旅をしたんだ。バスに乗り遅れて、田舎道をひとりで歩いているうちに日が暮れちまってね。暗い夜道を心細く歩いていると、ぽつんと、一軒家の農家が建っているんだ。庭にはりんどうの花が、…
昔のことだが、私は信州の安曇野というところに旅をしたんだ。バスに乗り遅れて、田舎道をひとりで歩いているうちに日が暮れちまってね。暗い夜道を心細く歩いていると、ぽつんと、一軒家の農家が建っているんだ。庭にはりんどうの花が、…
川で洗濯をする。雨水で食器を洗う。土のついた泥だらけの手で米を掴んで食う。化学物質にまみれたならまだしも、自然に汚れたものは、汚れといえるのだろうか。ばい菌を食ってる実感はある。風邪はひかない。身体も元気だ。抗菌とは対照…
ああ、なんともやるせない。お前も金の僕というか。およそ職業と名のつくものに、いまだ男の意気地はあるか。幸福は色づくほど、湿気を帯びてカビを生む。仙人の棲む高山に比べたら、町の空気はどいつも卑猥か。喉やられ、肺やられ、血が…
地震を予兆され、市場からは米が消え、強力な台風に見舞われて、町の一部は水に沈む。中国の軍機が日本の領空を侵犯し、迫る総裁選は暗澹としている。雨のために太陽発電ができず、ついに電気が底を尽きた。激しい雨音に身を包みながら、…
日ごとに憂いは滝となって降りかかり、不穏な情勢に胸はざわつく。ああ、こんなにも空は晴れているというのに。押し寄せる悪意が人間を地上に縛りつける。右に揺られ、左に揺られ。それでもおれたちは、きよらかな光を放すまいと、屈折を…
8月いっぱいで畑の仕事を終えた。なぜ、あんなにも感謝されたのか分からぬまま。ひとえに、ご夫婦の人柄によるものだろう。だが、もし感謝される原因の0.001%が私にあるのだとしたら、己のすべてを仕事に捧げたことの他に、思い当…
感情とは無責任なものである。熱すれば聞こえのいいことを言い、冷めれば真逆のことを言う。ゆえに、約束や規律、恩の貸し借りに行動の基準を置く。貰ったものは返すこと。一度定めたことは、何があっても守ること。感情の起伏に関係なく…
玄米を食えぬ日がつづく。食の多様化によって、米を食わずとも容易に腹は満たせる時代だが、米しか食ってこなかった人間にとっては、米が食えなくなることは食を断たれることと同義である。苦しいが、苦しいときは、もっと苦しい境遇にい…
「その猪の肉ない、裏の物置に吊るしておいたんだわい。まだいっぺ吊るしてあっぞい」 「へーえ。たまげたなあ。どうして腐んなかったんだろう?」 「わげね。腐んねえようにしてあんだ。ぶづ切りした肉に塩まぶしてない、それを縄でき…
畑で働きはじめて早一ヵ月。早朝、数時間だけ働いて、それからは森に家をつくるために、木を伐ったり、整地したりしている。一日数千円だけでも、収入があると安心するものだ。いくら水道光熱費や、食費がかからないといっても、完全に金…