自分の命は誰のものか。② 宇宙に還さなければならない時は訪れる[159/1000]

この命も、この身体も、この人生も、自分のものだと思って生きてきたが、死を考えてもなお、そのように言うことができるだろうか。

燃やされる肉体は煙となり、灰となり、純粋な光や音となって、肉体から解放された魂は、エネルギーとして宇宙に還っていく。

 

もしそうなのだとしたら、この命も、この身体も、この人生も、宇宙からの借り物にすぎないのではないか。自我を宿した我々は、これを自分のものだと思い込もうとするが、本当に自分のものであるなら、なぜ永遠を手にすることができない。

死んだらすべてを返還しなければならない。返還期限はおよそ80年。人によっては返還を催促されることもある。死に際に、死にたくないと見苦しくわめくのは、この命やこの人生が永遠に自分のものだと思い込んだ傲慢さの代償ではないのか。

侍が切腹の時も肝が据わっていたのは、自分が天から命を受けた存在だと自覚して、今が天に命を返還するときだと受け入れていたからではないのか。天からやってきて天に還る。だから天に還る瞬間を最高の名誉として、死ぬことに敬意を示したのではないか。

 

現代社会では、死はどういう意味を持っているのかは、いつも忘れられている。いや、忘れられているのではなくて、直面することを避けられていた。ライナ・マリア・リルケは、人間の死が小さくなったということを言った。人間の死は、たかだか病室の堅いベッドの上の個々の、すぐ処分されるべき小さな死にすぎなくなってしまった。そしてわれわれの周辺には、日清戦争の死者をうわまわるといわれる交通戦争がたえず起こっており、人間の生命がはかないことは、いまも昔も少しも変わりはない。

三島由紀夫,「葉隠入門」, 新潮文庫

 

死を考えずして生を考えることはできない。あらゆる宗教は死を起点にしていると読んだことがある。その中心を貫く一つの問いが「この命は誰のものか」だと感じている。誰のために、何のために死ぬか。

だから命や人生を自分のものだと思い込んだとき、自分が神となって、宗教は消える。(厳密には自分が主となる)

 

人のために、社会のために、国のためにと人々は言うが、その多くも根本を見れば(自分のために)が前提にあるように思う。「この命は誰のものか」という問いは、真正面からこの前提にぶつかっていく。自分を中心に生きる人間にとって革命そのものとなる。

 

金剛般若経に登場する詩をもう一度、筆写したい。

かたちによって、わたしを見、

声によって、わたしを求めるものは、

まちがった努力にふけるもの、

かの人たちは、わたしを見ないのだ。

目覚めた人々は、法によって見られるべきだ。

もろもろの師たちは、法を身とするものだから。

そして法の本質は、知られない。

知ろうとしても、知られない。

中村元・紀野一義訳注,「般若心経 金剛般若経」, 岩波文庫

 

最後の2行は「葉隠」の忍び恋そのものだった。葉隠が生の哲学であると同時に、恋の哲学であるという三島由紀夫の言葉が、少し理解できたようだった。

今後もこの詩と幾度となく対面していく予感がしている。

 

精神修養 #69 (2h/146h)

①言霊。言葉を発するにはエネルギーがいる。エネルギー保存の法則のもとで生きる我々は、言葉に何かしらのエネルギーを宿している。「言霊が電脳空間に吸われて、生に質量を感じなくなる」という言葉を見て、自分にも当てはまると感じる。

 

②主を持たない人間が武士道に生きようとしても、主のないところに武士道はありえない。仏教的な瞑想において自我を滅することに近づくかもしれないが、穏やかな人間になっても、武士の気高さとは別物であるような気がしている。

 

[夕の瞑想]

③瞑想の在り方が変わる。瞑想が呼吸に集中するという行為上ものから、魂と肉体の拮抗作用の側面を知り、”自分を観察する”ことから、”自分のものではない自分を観察する”ことへを知り、武士にとっての瞑想が恋忍ぶことだと知り、宗教の本質が法を身とすることだと知った。通ずるのはいつも自我から離れることだと感じる。

 

④この命は誰のものか。命は自分のものだとずっと思ってきた。しかし、ならばなぜ、死ぬときには命は宇宙に還っていくのだろうか。自分のものではなく、借り物だと言った方が正確ではないか。借りているものを、死んで還す。

どこに還すのか。想像でしかないけど、宇宙を満たす大きなエネルギーに還っていくのではないか。そういう意味で我々は”宇宙人”だ。宇宙の法に生きている。法のもとに生きて、宇宙に還っていく。愛や友情、時代を超えて語り継がれる真理というものが宇宙の法に通じていることは何となく分かる。

 

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