自他を欺いたところで、己はますます卑怯になるだけだ。[889/1000]

八ヶ岳が冠雪した。山頂から下ってくる風が一段と冷たくなったようだ。毎日が寒い。身体が徐々に底冷えていく。身体が冷え込むと気の張りようも弱くなる。熱い湯船に浸かって、こたつで蜜柑を食べられたらどれほど幸せだろうかと、そんなことを考える。昨日は、自然の克服を嘲った。だが今は、文明の暮らしが心底恋しい。これからやってくる冬の心配も、今晩耐えぬく寒さの心配もすることなく、普段とおなじように、温かい晩飯を食べながら、たいせつな人との時間を過ごすのである。

 

昨冬、掘っ立て小屋で過ごしたとき、あまりにも寒く、壁四方にビニールシートを打ちつけた。格好はかなり悪かったが、背に腹は代えらなかった。それでも凍えるほど寒かったので、小屋のなかにホームレス風の段ボールハウスをつくった。これでようやく、すきま風を防ぐことができた。寒さをしのぐ一心だったが、気づけば見た目はとても惨めとなった。

 

そんな経緯があって、今度の家は断熱材を入れざるをえなかった。軽蔑するなら軽蔑するがいい。私は自分を軽蔑しているのだ。信条があるのなら、そのまま凍え死んだほうがずっと格好はついた。だが、死にきる力を持ちえない。自然に抗う力も持ちえない。無力のまま、自然と共存する智慧もないまま、文明に悪態をつきながらも魂を売るような真似をしなければならない。ああ、こうなれば何を言っても見苦しい。生きるほうにはそれらしい理由は自ずとつく。だが、そうして自他を欺いたところで、己はますます卑怯になるだけだ。まったく、武士は凄い。結局また、キチジローか。

 

2024.11.25