「ご両親は何も言わないのですか」と聞かれると、とても不快な気持ちになる。森の中で風変りに生きていると、出会う人間によくこの質問を受ける。第一に「お前の両親は道徳観の欠けた無責任な人間なのか」と言われているようで、とても悲しい気持ちになる。第二に、「あなた自身はまっとうな生き方をせずに恥ずかしくないのですか」と言われているようで、とても悲しい気持ちになる。
次第に、お前がおれの何を知っていて、そんなことを知って何になるのだと、情けない気持ちになってくる。恥の多い生き方であることは分かっている。だが、少しでもまっとうに生きようと泥だらけに労働する今は、人様に後ろ指を指されるようなことは何もない。
似たような質問に「ご両親は心配しませんか」というものもある。自分の子供だったらと考えると心配になるのだろう。気持ちはわかるが、この質問も馬鹿げている。心配しない親なんているものか。心配して、反対しながら、仕方なく子に旅をさせるのだ。子としては、親を心配させないような、立派な人間にいち早くなりたいと願う。堕落しながら、地に屈しそうになりながら、それでも地道にやっていくのだ。
こんな質問をするのは、たいてい道徳家の善人だ。我が子のように心配する婆ちゃんならまだしも、この言葉が男から発せられたら終わりだ。荒野の寒さと、孤独の苦しみを知ってる男なら、そんな言葉が口から出るはずがない。その証拠に、お前の息は腐臭を帯び、言葉は無気力に満ち、下っ腹はたるんでる。男なら何も言わず、すべてを察してくれ。沈黙のうちに邂逅を果たし、すべてを分かり合おうぜ。
2024.9.24
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