生きとし生ける者の深くに燃える根源的な力[724/1000]

人間は変りはしない。ただ人間へ戻ってきたのだ。人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。

坂口安吾「堕落論」

安逸は力を要しない。だが、思考が浅瀬を横切り単調な回路を形成するうち、脳髄は委縮を重ね、無力の業火に焼かれることになる。堕落した日々に付きまとう無価値観は、人間を貶め卑劣にする。己の不甲斐なさに耐えきれぬ心は、ついに武士道を歩まずにはいられない。禅寺の早朝、便所掃除を丹念にこなし、規律と鐘に戒められ、打座に心を清め高めるような、厳格で繊細な気風を生活に編み込むことで、この世の安心を知る。俺は何度も願おう。力よ与えられよと。俺は信じよう。生きとし生ける者の深くに燃える根源的な力を。

 

2024.6.12

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