救われない人間のために、涙を流してやりたい。[690/1000]

暗室に閉ざされた魂は救いを求めて、憔悴へと向かう肉体は舟へと向かう。救いようのない淪落には涙を与えてやる値打ちもないが、心臓が抉られるがままに曠野へ進むというのか。大いなる雫は男女に染み入り、俺たちは性別を獲得する。だが、どうやら雫が足りない者もいるらしい。俺は己の怠惰を海に沈め、悲痛を、自惚れを、罪を知らない雲のなかに放り投げてやりたい。なあ、人間は、どうしてこうなのだろう。たとい虚無に堕ちようと、俺は救われない人間のために、涙を流してやりたいよ。

 

2024.

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