神に力を乞えるなら、どうか意志を授かろう。[692/1000]
死を愛する気力も失せたとは、まるで売れのこりの娘同然だ。 『神』がもし聖らかな天空の平穏を、祈りを、与えてくれたのなら、―古代の聖賢のように。―聖人、強者か、ふん、遁世者、いかさま芸術家か。 道化がいつまで続くのだ。俺は…
死を愛する気力も失せたとは、まるで売れのこりの娘同然だ。 『神』がもし聖らかな天空の平穏を、祈りを、与えてくれたのなら、―古代の聖賢のように。―聖人、強者か、ふん、遁世者、いかさま芸術家か。 道化がいつまで続くのだ。俺は…
あてどもない旅路には、雲一つない空が苦しくてならない。涙の数だけ思いは巡る。少年の夢。少女の笑顔。永遠に膨らむ宇宙のなかで、幸福な眠りに一生を終えられたら。だが、遅かれ早かれ、俺たちは不幸によって目を醒ます。優しい日常を…
暗室に閉ざされた魂は救いを求めて、憔悴へと向かう肉体は舟へと向かう。救いようのない淪落には涙を与えてやる値打ちもないが、心臓が抉られるがままに曠野へ進むというのか。大いなる雫は男女に染み入り、俺たちは性別を獲得する。だが…
忘れ去られた砂漠の風が、心臓の奥深くを抉る。大地のひび割れた荒涼な地に、俺の手足は吸い込まれていく。追憶の鐘は鳴る。死に誘われて、今一度、魂を取り戻しに行くときが近づいている。借り物の生活を捨てて、源泉から流れ落ちたとこ…
皮膚は泥と鼠病に蝕まれ、蛆虫は一面に頭髪や腋の下を這い、大きい奴は心臓に這い込み、年も情も弁えぬ、見知らぬ人の唯中に、横わる俺の姿がまた見える、……俺はそうして死んでいたのかもしれない、ああ、むごたらしい事を考える。俺は…
眼は燃え、血は歌い、骨はふくれ、涙と赤い神経の網は晃めく。その嘲弄と恐怖とは、一瞬と思えば、また、幾月も幾月もうち続く。 この野性の道化の鍵は、唯、俺一人が握っている。 ランボオ「飾画」 眠りは破壊された脳髄を再生し強化…
麻酔打たれ、機嫌に好かれ。善良な顔をして、毒散らし草枯らす、人間の王国に進歩の奴隷として仕える様は、おおなんとご立派か。ある者は金のため、ある者は無智のため、魂は草の悲鳴とともに搔き消され、無血の惨事は日曜のありきたりの…
放蕩はまさしく愚劣である。悪徳は愚劣である。腐肉は遠くへうっちゃるがいい。だが、時計が、この純潔な苦悩の時を告げて、止まってしまうわけはなかろう。 ランボオ「地獄の季節」 泥を食い、借り物の鎧を誇り、偽善をこよなく愛し、…
そうだとも、俺は貴様らの光には眼を閉じて来た。いかにも俺は獣物だ、黒ん坊だ。だが、俺は救われないとも限らない。貴様らこそいかさまの黒ん坊じゃないか、気違いじみた残忍な貪欲な貴様らこそ。 ランボオ「地獄の季節」 忘却の雨が…
秋だ。俺たちの舟は、動かぬ霧の中を、纜を解いて、悲惨の港を目指し、焔と泥のしみついた空を負う巨きな街を目指して舳先をまわす。ああ、腐った襤褸、雨にうたれたパン、泥酔よ、俺を磔刑にした幾千の愛欲よ。 ランボオ「地獄の季節」…