力とは雪だるまである。[599/1000]
生活の深みにはまるほど、抜け出すために相応の力が必要になる。例えば、1週間引きこもってしまうと「このままではいけない」という健全なる社会性によって、彼は沼から引き出される。だが、これが半年や1年になると、かつての社会性は…
生活の深みにはまるほど、抜け出すために相応の力が必要になる。例えば、1週間引きこもってしまうと「このままではいけない」という健全なる社会性によって、彼は沼から引き出される。だが、これが半年や1年になると、かつての社会性は…
インドへの旅が決まった。日本からデリーまで片道3万円だ。貧乏旅に慣れ親しんだ人にとっては、妥当な額に思われようが、貧乏旅を知らない人からしてみれば、「そんなに安く行けるのか」と驚く金額であろう。 旅に際して、大半の日本人…
何の気持ちの整理もつかないまま、インド行きの航空券を買った。気持ちが整理されるのを待てはしなかった。よし、旅に行こう!と思い立った勢いで、力強く旅立つ力を失いつつあったからだ。これ以上待てば、旅立つ力が完全に失われてしま…
淡い空泳ぐ、金色の雲。群れをはぐれた、小鳥の鳴き声。冷たい風を羽ばたいて、どこまでも飛んでいく。 生きることはどうしてこうも哀しいのだろう。分かっている。センチメンタルな言葉はお預けだと約束しただろう。冬を耐え忍ぶ木の葉…
私が都会に抱いた初めての印象は、人に対する関心のないことであった。おびただしい人の数が、街の通りを歩いている。中にはティッシュを配ったり、病気の我が子のために看板を自作して募金に励む人もいる。マイクを口に当てて政治活動を…
生きることは夢のようなものだという。夢とは、神が時空に零す記憶の涙である。空の遥か彼方からやってきて、風のように知らぬ地へ去っていくものである。少年期の冒険も、青年期の野望も、壮年期の苦悶も、老年期の叡智も、すべて優しい…
世間の目は騙せても、己の目は誤魔化せない。己の聡明な目だけが、己のうちに存在する神を知る。ゆえに、神を忘れるために馬鹿になる。己を欺くことに対する罪悪とは、自分のために生じるものではない。神を欺いていると自覚するから、罪…
勝者の論理を正義というのではなく、古くへと立ち返ることを正義と言えないだろうか。肉体に例えるならば末梢神経と戯れることではなく、心へと立ち返ることだ。男女の交合に例えれば、心の合一となるものが前者であり、末端の感覚器官の…
沢木耕太郎さんの「深夜特急」全6巻を読み終えた。凡庸な終わり方を想像していた私は度肝を抜かれ、思わず声を漏らしてしまった。 インドのデリーから最終目的地であるロンドンまで、1年以上かけてバスで旅するうちに、…
それにしても、旅人の相手をしてくれるのは老人と子供だけだな、とベンチに坐ったまま私は思った。観光客を相手の商売をしている人たちを除けば、いつでも、どこでも、私たち旅人の相手をしてくれるのは老人と子供なのだ。しかし、それを…