希望は絶望から生まれる。どん底に落ちても必ず上を向ける時はくる。

まだ夜が明ける朝の5時、雪の上で、目を覚ました。

凍えることもなく、思いのほか、ぐっすりと快眠できた。

 

昨晩、2020年になって初めての雪が降った。

僕が仕事を終えた23時には、すでに路面が凍っていたから、原付から寝袋2つとマットを取り出して、歩いて帰った。

そして、適当な茂みで、寝た。

 

最近は、「テント生活」と言いながらも、テントを張らずに、地べたに直接マットを敷いて寝ている。

テントがない方が、星も見えるし、広々と足を伸ばせるし、なにより地球の上で寝ているような感覚になれる。

 

冬の時期ほど寒いから、テントが必要だと勝手に思い込んでいた。

けど冬は虫もいないし、星が綺麗に見える。

 

冷静に考えてみれば、テントで寝る必要は、あまりなかったのかもしれない。

必要だと思いこんでいたものが、ある種の体験を奪っていたことに、ちょっと驚いている。

 

1 希望は生きることに意味を与えてくれる

絶望は生きることから意味を奪っていくかもしれないけれど、

希望は生きることに意味を与えてくれる。

 

2020年2月半ばから、オーストラリアを横断する。

正直に言えば、今の私には、「やっと旅ができる!」という高揚感より、人生に大きな動きが生じることへの恐れの方が大きい。

 

この半年間は、「旅をするためにお金を貯める」という体裁で皿拭きの仕事をしてきた。

「世界を旅するため」と思えば、どんなに地味で単調な肉体労働もがんばろうと思えたし、家なしテント生活のなかにも、人の温もりや喜びを見いだせた。

 

大げさかもしれないけれど、もし「世界を旅する」という希望がなければ、今こうして文章を書いているどころか、生きることさえ叶っていなかったと思う。

この類の仕事は、自分を幸せにするものだとは思えなかったし、家なし生活にしても、人を迎え入れるなんて考えられないくらい、貧相で惨めなものだった。

 

「世界を旅したい」という微かな希望1つだけが、この生活にも、生きることにも、意味を与えてくれた。

明るい未来を想像すれば、「ここにいても俺は大丈夫だ」と思えた。

 

絶望が生きることの意味を奪っていくのだとしたら、希望は生きることに意味を与えてくれる。

ただの皿拭きが、夢の一部になるし、家なしテント生活も、下積みだと思える。

 

2 希望は絶望から生まれる

希望は絶望から生まれる。

どん底に、落ちて、落ちて、落ち切ったとき、必ず上を向けるときがくる。

 

今こそ希望を抱いているものの、元をたどれば、この生活の始まりは絶望だった。

私はかつて、新卒2ヶ月で心を病んで仕事をやめている。

そのときは、孤独を紛らわすために部屋にこもって、1日中ゲームをしていた。

 

自分をコントロールできなくなって、ゲームをやめたくても、やめられなくなった。この出来事は、私の自信を著しく下げた。

自分が自分を制することができなくなると、自分の人生をコントロールできる感覚も失ってしまう。

「俺は将来何があろうと幸せになれる」という揺るぎない自信が、「俺はこの先どうなるんだろう」という不安に変わった。

終いには、わけわからなくなって、絶望に涙する自分がいた。

 

もっと遠い過去を振り返れば、そもそもこの世に生を授かったときも、絶望だったかもしれない。

赤ん坊だった自分を思い出すことはできないけれど、母と繋がっていたへその緒を切り離されたとき、「やめて!切り離さないで!私を一人にしないで!」と泣いていたと思う。

その瞬間は、生きることに希望なんてなく、絶望だったに違いない。

 

もともと人生のスタートには、希望はなかった。

私たちは、母に愛され、父に学び、友達に会い、幸せな未来の想像を少しずつ膨らませてきた。

 

それなら、希望を失うことは、ゲームオーバーではなく、リスタートだと思える。

赤ん坊の自分が、何もないところから、幸せな未来を膨らませてきたように、これからも今の自分なりの幸せを描いていけばいい。

 

きっとここに、人の強さが現れる。

「私はもうダメだ」と思ったとき、「いや、それでも私は大丈夫だ」と信じられる力が、その人の器量なんだと思う。

 

私は弱かったから、絶望におちたとき、良い未来を想像することなんてできなかった。

「もう俺の人生は終わった」と、落ちて落ちて落ちていった。

 

仮にもし今、世界を旅することが叶わなくなったら、同じ状況に陥ると思う。

この半年間は、修行するように、家無しテント生活をしてきたけれど、そこまで強い人間になれたかと聞かれたら、やっぱり弱い人間だと言うしかない。

 

ただ1つだけ、以前と異なることがあるとしたら、希望は絶望から生まれることを知っていることだ。

落ちて落ちて、どん底までおちきったとき、上を向けるときは、必ず来る。

 

少なくとも、私はそう信じる。

 

3 希望を失う勇気を持て

実を言えば、ここのところの私は、「夢を見つづける自分」に安堵していた。

「世界を旅する」という希望を持ってさえいれば、ここで繰り返される単調な、お皿を拭く日々も、一生続けられるんじゃないか、と感じる自分がいた。

 

つまり、「夢を持っている自分」に満足してしまい、「夢を叶える自分」ではなくなっていたということだ。

そんな自分に気づいたとき、「ああ情けねえ。」と自分の弱さを知った。

 

同時に、パウロ・コエーリョの「アルケミスト」に登場する、クリスタル商人を思い出した。

大好きな本なので、こちらで紹介。

「メッカはピラミッドよりずっと遠いところにある。わしが若かった頃、わしの望みのすべては、お金をためて、店を始めることだった。いつか自分が金持ちになれば、メッカに行けると思っていた。わしはお金をため始めた。しかし、わしは他人に店をまかせて出かけることが、どうしてもできなかった。クリスタルはとても壊れやすいものだからだ。その間、人々はいつもわしの店の前を、メッカに向かって通り過ぎていった。ある者は金持ちの巡礼者で、召使いとらくだを連れて旅をしていた。しかし、巡礼者のほとんどは、わしよりも貧乏人だったよ。メッカに行ってきた連中は、巡礼ができて幸せそうだった。彼らは自分の家の門のところに、巡礼に行ったしるしをつけるのだ。その中の一人 で、長靴を修理して生計をたてている靴なおしは、ほとんど一年かけて砂漠を旅したが、買った皮をかついでタンジェの通りを歩くほうが、よっぽど疲れると言っていたよ」

「ではどうして今、メッカに行かないのですか?」と少年がたずねた。

「メッカのことを思うことが、わしを生きながらえさせてくれるからさ、そのおかげでわしは、まったく同じ毎日をくり返していられるのだよ。たなに並ぶもの言わぬクリスタル、そして 毎日あの同じひどいカフェでの昼食と夕食。もしわしの夢が実現してしまったら、これから生きてゆく理由が、なくなってしまうのではないかとこわいんだよ。おまえさんも羊とピラミッドのことを夢見ているね。でもおまえはわしとは違うんだ。なぜなら、おまえさんは夢を実現しようと思っているからね。わしはただメッカのことを夢見ていたいだけなのだ。わしはな、砂漠を横切ってあの聖なる石の広場に着いて、その石にさわる前に七回もそのまわりをぐるぐるとまわるようすを、もう千回も想像したよ。わしのそばにいる人や前にいる人、その人たちと一緒に語り合い、祈るようすも想像した。でも実現したら、それが自分をがっかりさせるんじゃないかと心配なんだ。だから、わしは夢を見ている方が好きなのさ」

パウロ・コエーリョ; 山川 紘矢; 山川 亜希子. アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

 

本を読んだとき、このクリスタル商人の気持ちは痛いほど分かった。

夢を抱き続けていれば、「夢のある人生」になる。それは「この宇宙には、他の生命体がいる!」と思うのと同じくらい、神秘的な高揚感を与えてくれる。

 

けれど、夢を心の拠り所にしたとき、その夢はもはや「叶えるもの」ではなく、「寄りすがるもの」になる。

夢は「未来の可能性に導く自由なもの」だったはずなのに、「今の生活に縛り付ける窮屈なもの」へと変わってしまう。

 

きっとクリスタル商人のおじさんは、夢を叶えてしまったら「夢のある人生」は「夢のない人生」になるものだと思っている。

けど、夢なんて早々になくなるものじゃない。

1つ叶えたら、また1つ、また1つと出てくるのだと思う。

 

もしそれで、夢をすべて叶えて、「夢のない人生」になったら、もう最高じゃないか。

それほどに、生きることができたら、きっと死ぬときに悔いはない。

それは自分の命に対して何よりも誠実なことだと思う。

 

冒頭でも書いたように、私はオーストラリアを一人で横断することが怖い。

半年間、身体に染みついたこの生活を捨てて、人生に動きをもたらすことに一抹の不安を抱えている。

 

クリスタル商人のおっちゃんの言う通り、夢を追い求めれば、必ずどこかで傷つくと思う。

テントで寝ているときに、毒蛇に噛まれるかもしれないし、人に襲撃されるかもしれない。

 

失敗や失望、苦難の数が、人の器量を磨くことは頭では分かっている。

分かっているけれど、「怖いものは怖いんだよ。」と反発したくなる。

 

そんなとき、私は未来の自分からの言葉を聞く。

「今はきっと怖いだろう。けれどお前は必ず乗り越えられる。強くなれる。」

そんな言葉が、新しい希望になる。

 

大丈夫。希望をもちつづけよう。

弱いなりに、強く生きよう。

 

旅はつづく。

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