セミの死を人は早いと哀れむが、われわれの命とてセミと如何ほど違うだろう。[746/1000]

梅雨も終わりかと思えば、今度はヒグラシが鳴きはじめた。五感では知覚できぬほどのゆっくりな速さで、季節は移ろい生命は老いていく。今からちょうど一年前、2023年7月にこの森にやってきた。仕事を辞めてまもなく、まずは倒木や雑草をこつこつ片付け、それから木を伐採して小さな家を建てた。世俗から離れ、森に隠居し、ついこないだ雪解けを迎えたと思えば、もう夏である。円環の理に存在していることを安堵するともに、既に死の輪廻に組み込まれている事実に少し哀しくなる。果たして私は、現世でやるべきことをやれているだろうか。ああ、もたもたしていれば、きっと最後の冬にも、同じ問いをしているにちがいない。セミの死を人は早いと哀れむが、はたしてわれわれの命とて、セミと如何ほど違うだろう。

 

2024.7.4

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