旅は人を「生活」から解放する。[579/1000]
旅は人を「生活」から解放する。生活とは、常識のシナプスだ。 生活から解放されることで、凝り固まった脳糸はほぐれ、隙間に新たな風が吹きこむのである。脳糸がほぐれ、一つ、またひとつと新たな形に紡ぎ直されると、世界が広がってい…
旅は人を「生活」から解放する。生活とは、常識のシナプスだ。 生活から解放されることで、凝り固まった脳糸はほぐれ、隙間に新たな風が吹きこむのである。脳糸がほぐれ、一つ、またひとつと新たな形に紡ぎ直されると、世界が広がってい…
ホッ、と息をついた、まさにその瞬間、激しい衝撃を受けた。 バスの運転手がまた例のレースをやり、前を走るバスに並び、さらに追い抜こうとして、大きく廻り込んだ直後のことである。 ガーンという音と、白い乗用車が路肩に飛び出した…
信じることよりも、信じないことのほうが容易い。愛することよりも、愛されようとすることのほうが容易い。戦うよりも、弱音を吐いているほうが容易い。素朴な慣習も、洗練された慣習の前では、奪われるに容易い。空を静かに見上げるより…
生活のある者は、「日」の単位で旅をする。少しがんばって休みを捻出できたときにかぎって、「週」の単位で冒険する。生活から距離を置いた者は「月」の単位で旅をする。私が東南アジアを貧乏周遊したときも、オーストラリアをヒッチハイ…
正月に兄と再会したとき、古びた鳥かごに、小鳥を一匹つれていた。話を聞くと、飼っているという。南国らしい、黄色い模様の美しい鳥であった。 私は、鳥かごを開けて、小鳥を大空に逃がしてやりたい衝動に駆られた。地球…
森で隠遁生活をしていたとき、現実と夢が入れ替わった。 かつて幻だと認識していたものが、色彩と輪郭をはっきりと帯びた現実となり、逆に現実だと思っていたものが、曖昧な幻となった。世俗に舞い降りて3週間、再び、現実と幻が入れ替…
森の生活から文明生活に戻り、どうやら頭に円形ハゲができたらしい。我ながら情けない肉体だ。 ショックはない。ハゲるのなら、いっそのことスキンヘッドにしてしまえばいいと考えている人間だ。みっともなくハゲを隠すくらいなら、スキ…
「神の愛」とか「愛の神」を口で語るのはやさしいのだ。苛酷な現実に生きる人間は神の愛よりもはるかに神のつめたい沈黙しか感じぬ。苛酷な現実から愛の神を信じるよりは怒りの神、罰する神を考えるほうがたやすい。だから旧約のなかで時…
怒りの神が支配する、暗澹の世界のなかにいて、はじめて人間を赦したキリストが、生誕したのは2024年前。 無責任な現実の脱落者として、生活を捨てたイエスは、ユダの荒野を孤独に歩いた。砂漠や死海は、現実の苦悩を象徴した。だが…
だが、彼は起きようとする気配もなく、ぼんやりと天井を眺めていた。横顔は、今まで眠っていたとは信じられないほど疲労を濃く滲ませ、目は背筋が冷たくなるほど虚ろだった。 (中略) 彼は旅に出て四年半になると言っていた。カナダに…