暗く沈む沼の底に、燦々ときらめく宝石がある。寒々とした夜の森に、動物を癒す炎がある。私は惹かれる。明るみに引き出されたものでなく、閉ざされ、秘められた、暗いものに。そのためなら、どこへでも行く。暗さと寒さと、不幸と孤独へ。世界がますます肥えるなら、空腹に斃れていよう。世界が眩しすぎるなら、暗い木陰で休んでいよう。世に覚えられているものを忘れ、世に忘れられていることを、覚えておこう。
おお、『生』よ。さきごろ、わたしはおまえの目のなかをのぞきこんだ。夜のように暗いおまえの目のなかに、黄金がきらめくのを、わたしは見た。―思わず恍惚として、わたしの心臓の鼓動がとまった。
―金色の小舟が一隻、まっくらな水面にきらめくのを、わたしは見た。沈みかけ、見ずにひたり、ふたたびさしまねく金色にゆれる小舟!
ニーチェ, 「ツァラトゥストラはこう言った」戦争
だが気づけば、己は完全に一人となった。果たして、己が欲してきたものは、己が失ったものに値するほど、大切なものだったのだろうか。いい加減、書く気も失せた。誰も読み手がおらぬというのに、己はいったい何のために書くのだ。ああ、己はただ、意地のためだけに書いている。何があっても千日間つづけるという神との約束のために、その形式を守るためだけに、保守的な信念のために、今にも斃れそうなところを、何とか食いつないでいる。
誰の役にも立たぬ。金にも一切ならぬ。いったいどうして、そんなことをやっているのだ。
2024.4.15
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