「無気力」から「力」の原理へ[565/1000]
電気のいっさいない三ヵ月の隠遁生活で、感情は森厳に整列した。脳髄は素朴な鎧を身に纏い強くなった。 文明生活のぬるま湯に馴染んだいまは、かれらも随分と放埓になった。ストーヴのおかげで手足が霜焼けになる心配はひとつもない。正…
電気のいっさいない三ヵ月の隠遁生活で、感情は森厳に整列した。脳髄は素朴な鎧を身に纏い強くなった。 文明生活のぬるま湯に馴染んだいまは、かれらも随分と放埓になった。ストーヴのおかげで手足が霜焼けになる心配はひとつもない。正…
島崎藤村の「破戒」の映画を観た。破戒は、隠遁中に感銘に受けた本の一つである。 差別を扱った題材に触れた後、「差別は駄目だ」と教条的に感化されることほど、偽善的なことはない。われわれは差別をしない”…
文明生活に舞い降りた。 なるほど「夜」を克服し、「寒さ」も物ともしない。温かい湯船に浸かりながら、ベートーヴェンの音楽だって聴ける。快適なぬるま湯につかりながら、自然に叩かれて強くなるのが生命だと断言できそうだと思った。…
仕事がなくとも、仕事をしろと言われる。書くことがなくとも、書けと言われる。こうした主客転倒を時に生み出す規律のなかでは、時間を克服できない人間の弱点が露出し、われわれは虚無に陥る。 主客転倒といえば、昨日も書いた、生の原…
隠遁中の三ヵ月は、色んな「主義」を言葉にした。エピクロスの東洋的快楽主義からはじまり、禁欲主義、神秘主義、民主主義、個人自由主義、耽美主義、ロマン主義、ヒューマニズムである人間主義、人文主義など、あげればキリがない。 &…
悲哀は高尚だ。なぜなら、悲哀は人間に祈りを要求するからである。天に身を捧ぐことを要求するからである。 明るいこと、楽しいことを、われわれは人に話す。明るいこと、楽しいことは、現世に帰る場所がある。だが、悲哀には帰る場所が…
貧しい時代の話はどうしてこうも泣けてくるのだろう。 先生は「これで好きな作文でも書きなさい」と言って、新聞紙に包んだノートを少年に差し出す。少年は「かあさんに叱られますから」と言って、何度も受取を辞退する。それでも先生が…
感情を整列させなければ、本は読めない。軍隊のように美しく感情を整列させ、号令一つで一斉に行進をするには、日頃の鍛錬がいる。 また、文章に人柄がにじみ出るのは、文章を書くにも、感情を整列させる必要があるからだ。  …
森にこもった三ヵ月を反省してみれば、とにかく書物にぶつかりつづけた日々だった。量も心掛けたが、何度も読み返すことを大切にした。その中でも特に影響を受けた本を、書きならべてみようと思う。 *** -トーマス・マン「魔の山」…
島崎藤村の「破戒」には、四民平等が宣言されたあとも、依然と差別がつづく「穢多」の素性を隠して生きる教員の苦悩が描かれる。穢多であることを絶対に言うなという父の戒めを破るため、破戒である。 新平民として素性がばれれば、教員…