静けさ真夜中 貧しうまや 神のひとり子は み母の胸に 眠りたもう やすらかに
静けさ真夜中 星はひかり 羊飼いたちは うまやに急ぐ 空にひびく 天使のうた
「カトリック聖歌集111番」
一年前のクリスマス、諏訪湖沿いの教会のミサに参加した。ちょうど隠遁生活を終えて町に下った日のことである。「静けさ真夜中 貧しうまや」からはじまるこの歌の合唱に、たいへん感動したことを鮮烈におぼえている。これほど素朴な詩をかつて聴いたことがあっただろうか。私はこの歌に出会えたことを至上の幸福に感じた。魂が泣叫ぶ隣で、人間のすべてが赦されていく感覚に号泣した。
人間、無意識のうちに洗練されていく。意識せずとも流行りのファッションをしているものだし、デジタル社会にも順応している。祭事の他に和服を着ることはなくなったし、手紙や年賀状を書く慣習も減った。気づかぬうちに古い慣習は取って代わられ、文化や魂は失われていく。素朴な詩に涙するのは、それが魂の残響だからである。われわれの心の奥底に眠る、子供の頃の忘れ去られた感情や、遠い先祖の記憶に触れられるのである。それゆえ、私は素朴を愛する。素朴な詩が現世の病から元気にするものだと信じるのである。
今年のクリスマスは、家づくりに追われてミサに参加できそうにない。残念だが、孤独に聖書を読むことにしよう。
2024.12.22